今年の予測はロボット・AIにフォーカスして予測してみたいと思う。
人型ロボットはやや注目のトレンドである。
注目ポイントは、ロボットのAI部分の進化と低価格化についてである。
ルンバのiRobot社が破産(中国資本に買収された)したように、ロボットのコモディティ化がこの市場に大きな影響を与えつつある現況から考えると、二足ロボットの普及が一段階広まると考えられる。
広まる範囲としては、
とはいえ、人型ロボットの理想と現実という点で言うと、価格的に、エンタメ向けにはやや利用しやすくなるので、色々な場面で目にする機会は増えるだろうが、パソコンのように一般に一気に普及するかというと、そうはならないだろう。
ここで一度、人型ロボットが「できるタスク」と「できないタスク」を整理しておきたい。
話題性やデモ動画では万能に見えるが、実用という観点で見ると、得意不得意はかなりはっきりしている。
人型ロボットが「比較的できる」タスク
- 決まったルートの移動(受付・案内・巡回など)
- 定型文での対話(受付・インフォメーション)
- 簡単な物の受け渡し(サイズ・重量が限定される場合)
- ざっくりした動きを活かしたエンタメ用途
このあたりは、すでにPepperなどでも実証されてきた分野であり、2026年に向けては価格低下により、展示会、商業施設、イベント会場などで見かける機会は確実に増えるだろう。
特に中国製ヒューマノイドの低価格化が進めば、「受付に1体置いてみる」「話題作りとして導入する」といった用途では導入障壁は下がる。
人型ロボットが「依然として難しい」タスク
- 柔らかい物体の扱い(衣類、食品、ケーブルなど)
- 力加減が重要な作業(ネジ締め、組立、清掃の細部)
- 環境が頻繁に変わる作業(家庭内全般)
- 長時間の自律稼働と安全確保の両立
この問題は、AIの知能不足というよりも、物理的な「手」と「アクチュエータ」の限界に起因していると考える。
Boston Dynamicsのロボットがバク転できても、卵を割らずに持てないというのがわかりやすい違い。
ARグラスにより、スマホがそれに切り替わらなかったように、ある程度の代替メリットを確立できなかった製品というのは、広まりそうで広まらないという状況がしばらく続くことがある。
期待の高まりと、幻滅期というものである。
ただ、人型ロボットというのはひとつのとっかかりとしては、非常に重要なので、ここは日本企業として外してしまうと、それはそれで大きなハンデにつながりかねない。
日本企業
人型ロボットに対する評価は冷静であるべきだが、一方で「人型を研究しない」「触らない」という判断は、日本企業にとってはリスクにもなり得る。
理由は単純で、人型ロボットは実用以前に「技術の統合点」だからだ。
二足歩行、バランス制御、センサー融合、アクチュエータ制御、リアルタイムAI推論。
これらは、将来的に人型として完成しなくても、他のロボット分野に横断的に波及する。
重要なのは、人型ロボットは、客寄せパンダか、人型ロボットバブルぐらいに考えて、そこから広がる、実用的なソリューションを淡々と磨くことを、現時点での本質として考える事だと思う。
アンドゥリル
昨年、米国企業のアンドゥリルが、日本産パーツを多く用いて製造したとされるドローンを公開した。
これは、日本企業が持つ部品技術・生産技術が、すでに最前線の軍事・防衛用途においても十分に通用していることを示している。
「日本企業同士が連携してちゃんと取り組めば、国産でロボットやドローンを作れるのか」という問いに対して、答えは明らかとなった。
日本の価値を再認識させてくれるのが、いつも外圧や黒船であるという構図は、残念ながら今も変わっていない。しかし、今回の事例は、単なる危機感ではなく、「日本の立ち位置」を冷静に見直すきっかけになり得る。
完成品としてのヒューマノイド競争に無理に参戦する必要はない。
しかし、ロボット・フィジカルAIの基盤技術を握り続けることは、日本にとって現実的で、かつ強い戦略だと考えている。
もうひとつ、アンドゥリルが教えてくれた重要なキーワードはドゥアルユースについてである。
危機管理の一環として国や、企業が考えるなら、日本企業は日本の民間ニーズだけを考えれば生き残れる時代は終わりつつある。軍事や、宇宙、海外市場のニーズを取り込みつつ生き残る方法を模索することが、重要な生存戦略となるだろう。
2026年、人型ロボットはどこに現れるか
2026年、人型ロボットは確実に「目にする存在」にはなる。
- 商業施設の受付
- 展示会・博覧会
- テーマパーク・イベント
- 企業PRや広告用途
しかしそれは、スマートフォンやパソコンのような「生活必需品としての普及」ではない。どちらかといえば、電脳メガネや3Dテレビに近い位置づけになるだろう。
つまり、「あると面白い」「未来感はある」が、「なくても困らない」存在である。
人型ロボットより伸びるもの
一方で、2026年に確実に伸びるのは、人型ではないロボットだ。
- 車輪+アーム型ロボット(倉庫・工場・病院)
- 犬型ロボット(警備・点検・災害対応)
- ドローン(点検・測量・監視)
AI
これらは「人間の形」を捨て、その代わりにタスク効率を最大化している。結果として、費用対効果が高く、導入理由も明確だ。
では、フィジカルAIも同じくバブルなのだろうか。
結論から言えば、フィジカルAI全体がバブルというよりも、「期待の置きどころ」がずれていると考えている。
現在は「何でもAI」「ロボット=AI」という言葉の混線が起きており、何が進化していて、何がまだ難しいのかが分かりにくくなっている。
実際には、AIは二つの方向に分かれて進化している。
ひとつは、すでに成果が出ている分野だ。
画像認識、異常検知、需要予測、最適化、シミュレーション。
これらは人間の代替というより、「判断の補助」「工程の自動化」として着実に定着している。
もうひとつは、期待が先行している分野である。
それが、人型ロボットを含むフィジカルAIだ。
ここでは、知能そのものよりも、センサー、アクチュエータ、電力、耐久性、安全性といった、物理の制約が支配的になる。
生成AIの進化スピードを、そのままロボットに当てはめてしまうと、必ずギャップが生まれる。
何がAIかわからなくなっている現在において重要なのは、
「AIが何をしているのか」ではなく、「AIがどこで使われているのか」を見る視点だと思う。
おそらく、目立たないが、地道に価値を生むAIが、静かに広がっていく年になるだろう。
フィジカルAIも同様である。
器用さと、反応的な知能を備えた、ロボットが家庭に入る未来は、もう少し先だ。
しかし、用途を絞り、環境を限定し、人間の代わりではなく「人間がやらなくていい部分」を切り出したロボットは、すでに社会に入り始めている。
2026年は、ロボット+AIに対する期待が期待先行で膨らむ年になるだろう。
それは、一歩間違えると、失敗の始まりとなるだろうが、ぜひ失敗を恐れず、しかし幻想には溺れず。日本の企業には、ぜひ新たな挑戦に挑んで欲しい。