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AI時代の漏えいラッシュを読む

漏えいのニュースが続いている。
「AIのせい」と言われるが、AIに聞くと証拠はまだありませんというので調べてみた。

調べて分かったこと

攻撃のコストが下がった。 攻撃側の運用者を追った調査では、1社あたり約25ドルでした。1人が数千ドルで、人手では採算が合わない規模を回している。

裾が重くなった。 総量は約2倍でも、100万件以上の大型事案は、年2件→6件→10件(2026年10月5日まで)です。なんだか1、2年前と比べると「10倍」ぐらに増えてない?とい我々の体感は、この裾の話のようだ。

防御が追いつかない。 分析ツールMetabaseの事例では、攻撃側は修正版の公表から5日で国内の初侵入に至り、国内の対策完了は34日後。

体感「10倍」の正体は、3層に分けると見える

警察庁のセンサー(試行)は、2025年上半期に前年比で減っていた(−7.5%と読める)が、2026年上半期は+50.7%。個人情報保護委員会の「不正の目的」の報告も、2026年4〜6月は前年同期比+28%。一方、ランサム被害の報告は123件で、前年同期の116件とほぼ同じ。ゆらぎの範囲内だ。

総量は1〜2倍なのに、1,000万件以上の事案は、14年で3回だったのが、2026年だけで3回起きている(東京商工リサーチの集計、上場企業とその子会社)。「10倍」は全体ではなく、裾の話。ただし、上場企業等の漏えい人数は年ごとの振れが大きく(前年比×6.9、×0.39、×1.9)、「倍増」だけでは異常とは言えない。

9〜10月の山も混合だった。10万件以上の30件を侵入日で並べ直すと、9/24〜10/9に始まった侵入が14件、それ以前が13件、不明が3件。新規の侵入ペースは、9月上旬〜中旬の1日0.22件から0.88件へ、約4倍(参考値)。検知から初報までの中央値は、7.5日から3日に縮んだ。実在する増加に、古い事案の浮上と開示の早期化が重なっている。

「既知の弱点の収穫」を日数で見る

Metabaseの脆弱性を悪用した事例を追うと、8/2にゼロデイ悪用、8/6に修正版、8/10にPoC公開、8/11に悪用確認済みの一覧入りと国内初の侵入。国内の対策完了(遮断・更新)は、修正版の34日後だった。攻撃は速く、防御は遅い。この差が日数で見える。1事例なので一般則ではないが、同じCVEでフランスの政府機関も被害を出している。同じ穴が、同じ週に、複数の国で収穫されている。

この事例の流出は約50万件で、国内全体の約0.4%。機構の証拠にはなっても、3億の説明にはならない。JPCERT/CCが10/8に整理した4つの手口のうち、大型事案の多くは「アプリ→管理用API」型の可能性がある(仮説)。焼肉きんぐでは、登録者の99.8%が一度に出ている。全件が一度に出る設計が、裾を重くしている。

AIの関与を、どの形で測るか

国内の公表でAI関与に触れた事案は、確認できた範囲で0件です。ただしこの0は、因果の不在ではなく開示の不在を測っている。被害企業のフォレンジックは、侵入経路は追えても攻撃者の作業環境までは普通たどれない。たどれても公表する動機がない。AIの寄与がどれだけ大きくても、この指標は0のままになり得る。

寄与の証拠は別の場所にある。1社25ドルという単価。拒否されたモデルから旧世代や安価なオープンウェイトモデルへ乗り換える運用者の行動。修正公表から5日の侵入。新規侵入ペースの約4倍化。これらは「AIが自律的に新しい脆弱性を発見して悪用した」証拠ではない。GTIGも実地では観測していない。だが「既知の穴を人手では不可能な単価と速度で総当たりする」証拠としては足りている。寄与の形を「発見」ではなく「収穫の産業化」と定義すれば、国内のAI関与公表0件と矛盾なく、寄与は大きいと言える。

国内の現象ではない

日経の3億のうち、国内は約8,100万件(約27%、単位は混在)。残りの73%は海外だ。国内の統計の振れだけを見れば「異常ではない」と留保できるが、同じ手口が同じ時期に複数の国で起きていることは、単一のローカル要因では説明がつかない。委託先の集中でも、国内の報道の増加でも、海外の73%は説明できない。説明できるのは、攻撃側の共通の変化、つまりコスト構造の変化だ。

換金の経済: メールと電話は安く、価値は別にある

メールの生のダンプは、1件あたり約0.002円(2022年の米国の数字で、1,000万件が120ドル)。メール・電話・住所を合わせた個人記録でも1〜4ドル。価値は、メールや電話そのものより、「この人はこの会員で、この番号を持つ」という紐付けと、再設定やSMS認証の拠点になることにある。特殊詐欺は2026年上半期に1,816億円で、SNS型投資詐欺は、当初接触の被害額の47%がバナー広告。リストは必須ではない。

詰まるのは後段。2024年は実質被害721.5億円に対し、検挙人員は2,320人で、1人あたり約3.1億円。防御は、前段の検知の軍拡より、後段(口座・送金・本人確認)の摩擦に置く方が効率的だと考える。

専門家の見立てと突き合わせると

国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、現状は既知の脆弱性を多数の企業に総当たりする型が大半で、報道は氷山の一角だと指摘している。私の調査も同じ方向で、総当たりの単価が落ちたことが本質だと考える。

DCXforceの天野彬氏は、オープンウェイトモデルは提供元が止められず、一社の自制は他のモデルで無効化されると述べています。調べた事例でも、新しいモデルに拒否された運用者が、旧世代のモデルや安価なオープンウェイトモデルに切り替えていた。提供元の制限では守れない。守れるのは、守る側の構造だけだ。

サイバーエージェントの石田裕子氏は、将来は防御優位へ移る可能性を挙げています。可能性はありますが、今は攻撃側が先行。検知から封じ込めの自動化が広がるかが、その分かれ目。

反対仮説をつぶしておく
委託先に集中して被害が出ているのでは: 確認できた範囲では、国内の主因ではない。自社公開系の脆弱性・設定の事案が、量では多い。海外分も説明できない。
報道が増えただけでは: 昨年も大きな事案はあった。実数の指標も2026年に上向き。総量は1〜2倍だが、裾と海外分は報道量では説明できない。
AIが新しい穴を見つけているのでは: 実地での観測はない。寄与は発見ではなく収穫の側にある。
AIは無関係では: 国内公表で0件なのは開示の問題。攻撃者側のサーバーの調査でAI駆動の運用は確認でき、単価と速度の変化はそれと整合する。無関係とするには、25ドルと5日を別の理由で説明する必要がある。

前提が変わったので、守る場所を変える

これまでの防御は「攻撃者の人手は有限で、穴を塞ぐ速さで競えば勝てる」という前提の上にあった。その前提が壊れた。修正版から5日で侵入され、対策完了に34日かかる競争は、速さを上げても勝てない。だから軸を、「穴を塞ぐ速さ」から「穴があっても全件は出ない構造」へ移す。以下の3層はその順で並べている。

個人: 認証の拠点(メール・携帯番号・銀行)をパスキーで守り、メールはサービスごとに捨てられる形にする。漏えいしたサービスと同じパスワードを他で使っていないかを、まず確認する。

企業: 全件・大量取得ができないAPI設計と、レート制限・異常検知を既定にする。台帳に載らない資産(社内BIツール、モバイル管理API)を見つけ、悪用確認済みの脆弱性は数日で当てる。侵入済みを前提に、過去のログも点検する。

自治体: 委託先とクラウドの集中を把握し、境界機器を棚卸しし、住民向けの確認窓口と詐欺の見守りを整える。社会全体では、口座・送金・本人確認の後段に摩擦を置く。

半年後(2027年4月)の見立て

既知の弱点の収穫が速くなり、全件持ち出し型の大型事案が高止まりし、換金は口座と二次詐欺に集中します。能動的サイバー防御は10月1日に施行され、既存設備の資産届出の期限は2027年3月31日、インシデント報告は速報と30日以内の詳報です。

答え合わせ表(事前登録)

指標加速想定内確認時期
100万件以上の事案(東京商工リサーチ、2026年通年)14件以上12〜13件(11件以下は失速)2027年1月
ランサム被害報告(警察庁、2026年下半期)131件超100〜130件2027年3月ごろ
悪用確認済み脆弱性の追加→国内初の被害公表7日未満7〜14日随時
国内の対策完了(修正版公表から)14日未満(改善)14〜30日随時
特殊詐欺の被害額(2026年通年)3,500億円以上3,000〜3,500億円2027年前半
攻撃へのAI関与を公表した国内事案(私の確認範囲で現在0件)3件以上0〜2件2027年4月

なぜ証明を待たないか

AIの因果は、厳密には未証明だ。それでも抜本的な対策を求めるのは、証拠が弱いからではなく、損失が非対称だからだ。寄与が小さかった場合に構造を変えて失うのは移行コストだけで、それは他の脅威にも効く。

寄与が大きかった場合に過去の対策で待てば、人口の半数規模の紐付けデータが換金市場に出切ってから気づくことになる。それは取り返せない。未知の問題と大きな予兆を前に、慎重さは証拠の読み方に向けるもので、行動を遅らせる理由にはならない。

未解決

日経の3億のうち、海外分の内訳と手口の一致は未検証。前年同期の同基準比較も、まだやっていない。寄与の大きさを数値で置くには、攻撃側の単価と速度の時系列が必要で、現在は点でしか取れていない。

数値の一部は私の見積もりで、根拠にはベンダー報告や二次資料を含む。

主な出典(公開時はリンクを付ける想定)
警察庁(サイバー空間の脅威情勢、特殊詐欺の統計)、個人情報保護委員会、東京商工リサーチ、JPCERT/CC、Mandiant、CrowdStrike、Gambit、Unit 42、GTIG、CISA KEV、ANSSI、各社の公表文。一部は集計サイト(SmartScopeなど)経由です。